2018年12月3日月曜日

【活動報告】茶産地見学IN京都北部

茶産地研修IN京都北部
報告書作成: 櫻井喜仁(茶産地研修 幹事)

研修実施日時
2018年11月17日(土) 8時~18時
研修参加人数
(京都駅発)バス参加者 25名 (京都府支部 23名、 他支部 2名)
(山城地域より)自車参加者 2名
(京都北部より)現地集合者 6名
総員33名 
(※ 現地集合者6名は京都北部の日本茶インストラクターであり、当日の講師やスタッフとしての役割も兼ねました)
研修の行程
8:00 京都駅八条口 バス出発 (バス運行会社 「亀岡小型バス」)
10:00 あやべグンゼスクエア 到着 (綾部市)
    両丹茶の歴史 第1部「養蚕業から茶業へ」 研修後、グンゼスクエア内にて自由時間
11:30 あやべグンゼスクエア 出発、 福知山方面へバス移動
    両丹茶の歴史 第2部「由良川と両丹茶」 (福知山市 土(つち)地区)
12:30 ホテルロイヤルヒル福知山 到着 (福知山市)              
    ~昼食~
13:30 両丹茶の歴史 第3部「両丹茶の歩む道」
14:30 両丹茶を使用したスイーツに関する研修会
    スイーツ&両丹茶 販売会                  
16:15 ホテルロイヤルヒル福知山 バス出発
18:00 京都駅八条口 バス到着、 解散

研修の企画についての趣旨
京都北部、由良川の中~下流域の綾部市・福知山市・舞鶴市に、「両丹茶」の産地が形成されています。「両丹茶」は流通の過程で「宇治茶」となるため、あまりその名を知られていませんが、山城地域とは異なる独自の発展を遂げた茶産地として、京都の北部に存在しています。

現在「両丹茶」の産地においては、鋏刈り(機械刈り)の玉露や碾茶を中心に生産が行なわれています。産地の規模は小さいものの、全国茶品評会の「かぶせ茶の部」においては、綾部市・福知山市・舞鶴市において11年連続で産地賞を受賞し続けているなど、高品質な一番茶に特化した独自のお茶づくりが特徴的となっています。そのような「両丹茶」について、参加者の方々が実際に産地を訪れて日本茶インストラクターとしての見識を深めていただくことが、研修の主な趣旨でした。

一方で、今回の研修にはもうひとつの趣旨がありました。それは研修受け入れ側となる京都北部の会員の、――― 「両丹茶の歴史を調べてみたい」 ――― という想いを実現することです。今回の茶産地研修の受け入れを契機に、日頃「両丹茶」の生産や販売に携わる京都北部の日本茶インストラクターの共通の想いを、「両丹茶の歴史を調べるプロジェクト」として進めてみる試みにもなりました。

研修受け入れの準備として北部会員は、「両丹茶」の歴史を改めて発掘する作業を進めましたが、現存する歴史資料の少なさや調査の難しさ、何よりも多くの先人が既に他界されており、歴史を語れる人のとても少ない現実に直面しました。同時に、北部会員が日々従事している両丹茶業は先人の知恵と努力によって築き上げられた、地域にとってかけがえのない産業であるということを改めて実感することにもなりました。

茶産地の歴史を学ぶことにより、現在の私たちの立ち位置が明確になり、今後の茶業はどうあるべきか、茶産地をどのように次代に継承していくか、見つめ直す契機となりました。

京都北部のインストラクターで取り組んでいる「両丹茶の歴史を調べるプロジェクト」はまだまだ未完成ですが、「茶産地研修IN京都北部」で参加者の皆様と交流を深め、調査の成果を共有できたことを励みに、今後もプロジェクトを継続していくことを確認しています。

研修内容についての報告
両丹茶の歴史については、3部構成で研修を企画しました。

両丹茶の過去から現在、そして未来へと続く道のりを実感していただくというコンセプトで、前半においては両丹茶業の歴史とは切っても切り離せない「養蚕業」と「由良川」を取り上げて、実際の茶園も見学しながら両丹茶の過去と現在に迫りました。後半においてはスライドや映像も交えながら、現在から未来へと続く道のりをイメージし、茶産地の未来を描く試みでした。また、地元の福知山市内の洋菓子店より講師をお招きし、「両丹茶を使用したスイーツ」についての研修を行ないました。

以下、研修の構成部分ごとに詳細を報告させていただきます。

1.   1部 「養蚕業から茶業へ」 
1部では「養蚕業から茶業へ」と題し、あやべグンゼスクエアの「集蔵(つどいぐら)」を会場として、養蚕業と共に歩んできた両丹茶について研修を実施しました。講師に元養蚕組合の榎本良明様をお迎えし、京都府北部(主に綾部市)の養蚕の歴史について、講義をしていただきました。両丹茶の歴史について考える上で、地域の養蚕の歴史とは切っても切り離せない密接な関係性があると考え、企画の早い段階から研修会には養蚕の歴史についての部分を盛り込む計画でした。

第1部の後半においては、講師に日本茶インストラクター協会京都府支部(北部会員)の四方英幹様より、「養蚕と共に歩んできた両丹茶」と題し、両丹地域の養蚕業と茶業を関連付けながら、その盛衰の歴史を振り返っていただきました。

養蚕業と茶業は、どちらも両丹地域の気候風土に適した有力な換金作物、そして産業として栄えてきました。由良川の氾濫の常襲地帯に位置するという、地域の宿命的な条件においても比較的安定した生産をもたらし、農村経済を潤してきました。

共通していることは、どちらも水害に強い作物であったこと(桑と茶)、低品質や低価格であった苦難の時代を経ながらも技術の普及や様々な改革に挑み続け、飛躍的に生産量を増やし、品質を向上させてきたこと、度重なる戦争などを経ながら盛衰を繰り返してきた歴史があること、などが挙げられます。

養蚕業と茶業においては、農薬散布を巡って軋轢があったことなど、貴重なお話も伺えました。参加者の方々には、養蚕業と茶業がお互いに絡み合うように関係を持ちながら、両丹地域に発展してきた歴史を実感していただけたと思います。

1部の最後には、当地の茶業に携わる若手の組織である「にのくに茶業青年団」より、橋本登美雄様を特別ゲストとしてお迎えし、和菓子職人でもある経歴の紹介や、茶業青年団の活動を紹介していただきました。

1部終了後は自由時間とし、グンゼスクエアの施設内を見学いただきました。

グンゼスクエアの敷地内には農産物や地場産品を販売している「あやべ特産館」、11月にはちょうど見頃を迎えている「綾部バラ園」、そして「創業蔵」「現代蔵」「未来蔵」といった3つの展示蔵から構成される「グンゼ博物苑」があり、綾部発祥の企業「グンゼ」の沿革や養蚕業と製糸業の歴史、今も綾部に脈々と受け継がれるグンゼの創業の精神にも触れていただきました。隣接するグンゼ本社の社屋など、歴史的建造物群も隣接していました。参加者の多くは、あやべ特産館内の「綾茶café」に立ち寄り、綾部のお茶を使用したメニューを各種楽しんでいただきました

2.   2部 「由良川と両丹茶」
2部においては、「由良川と両丹茶」と題して、福知山市内の由良川沿いに形成された茶園地帯において、度重なる由良川の氾濫の歴史の中においても困難を克服し、高品質な茶づくりを実践されている茶園に実際に触れて見学していただきました。多くの茶園の集まる福知山市の土(つち)地区において、群を抜いて栽培管理の行き届いた優良茶園を生産農家の勝田様よりお借りし、参加者の方々には実際に茶園を目の前にしてイメージしていただきながら、由良川の氾濫の歴史の中から両丹茶の姿を浮き彫りにする試みでした。

その後場所を移し、現在も茶園や茶工場に残る2018年7月の台風時の冠水の跡も見学いただきました。また、「両丹茶農協式茶園高棚被覆方式」の説明も行いました。第2部は当研修の幹事の櫻井喜仁が講師も務めました。

3.   第3部 「両丹茶の歩む道」
昼食後の第3部では「ホテルロイヤルヒル福知山」に場所を移し、「両丹茶の歩む道」と題して過去~現在~未来へとつながっていく両丹茶をスライドや映像も交えながら学習していただきました。講師は、日本茶インストラクター協会京都府支部(北部会員)で、当地の「JA京都にのくに」の茶担当職員でもある澤田誠様に依頼しました。

スライドにおいては再度、平安時代から現在に至るまでの両丹茶の歴史を振り返りました。また、両丹茶の歴史上、特筆すべき事柄である「荒茶販売斡旋所」、「両丹茶農協式茶園高棚被覆方式」、「一番茶に特化した茶生産」について、説明いただきました。

「荒茶販売斡旋所」は、当時画期的な「一元集荷多元販売」の販売方法であり、現在の茶市場の基礎となっています。

「両丹茶農協式茶園高棚被覆方式」は複数の幕をロープでつなぐことによって、被覆幕の開閉の省力化をはかる高棚被覆の方法で、1重式でありながらも「段階被覆」という方法を駆使し、高品質な茶を生産するという両丹茶の根幹を支える技術です。

映像においては、両丹茶(現在のJA京都にのくに管内の舞鶴市、福知山市、綾部市の3市)で、全国茶品評会「かぶせ茶の部」において10年連続産地賞を達成した際に制作された、10年連続に至る道のりを描いたショートストーリーをご紹介しました(その後、11年連続産地賞を達成)。

そして両丹茶の現在から未来に向けてということで、現在の茶業の抱える諸課題や、地域の各茶業組合の衰退や統合の話も紹介しながら、今後の展開については参加者の皆様に思いを馳せていただきました。

両丹茶業に携わる北部会員の描く、両丹茶の未来に向けての想いは、ショートストーリーの最後の部分に込められていて、そのような方法でのご紹介とさせていただきました。

4.   「両丹茶を使用したスイーツに関する研修会」
地域特産品の素材の美味しさを活かしたメニューが豊富なスイーツ&カフェの「カタシマ福知山店」より、講師に牧正徳様をお迎えし、両丹茶を使用したスイーツについて研修会を開催しました。両丹茶など地元の特産品を活かす商品開発や海外での取り組みのお話など、実際にスイーツの試食もしていただきながら、両丹茶の試飲も実施しました。

スイーツの試食には「玉露ときな粉のマカロン」、「福知山玉露のタルトショコラ(柚子マーマレード)」、「綾部煎茶のムース」をご準備いただき、参加者からは試食代を別途実費徴収となったものの、大好評をいただきました。

両丹茶の試飲については、各テーブルに両丹の代表的な玉露と煎茶を茶器とともに準備し、セルフサービスにて自由に試飲していただきました。

研修終了後には、参加者のおみやげ用や研修用として、各種スイーツ関連商品や両丹茶の販売会を開催しました。

研修の総括
宇治茶ブランドを京都北部から支える「両丹茶」の産地は、決して大きな産地ではありませんが、京都には山城地域の他にも、このような素晴らしい茶産地があるということを参加者の皆様にはお伝えできたと思います。

両丹茶の過去~現在~未来と、道のりを実感していただくことをコンセプトとして、企画を進めましたが、両丹茶の歴史を調べることは容易ではありませんでした。歴史を記した資料が圧倒的に少なく、多くの先人が既に他界されている現実に直面しましたが、北部会員にとっては、今回の茶産地研修の受入が自分たちの茶産地を改めて見つめ直すチャレンジになりました。「両丹茶の歴史を調べるプロジェクト」はまだ始まったばかりで、これからも継続していきますが、ひとつの茶産地研修が終わっても探求すべきことがあり、知りたいことがあるということは、日本茶インストラクターとしてとても幸せなことであると思いました。心残りであったのは、時に由良川に翻弄されながらも「養蚕業」と「茶業」という由良川の恵みとともに生きてきた先人の暮らしぶりや生業の様子といった、歴史資料に辿り着かず、養蚕業から茶業への変遷の部分が曖昧なままであったことです。

仮説になりますが、明治29年(1896年)創業の「グンゼ(郡是製絲株式会社)」の経営理念や企業姿勢がひとつの発端となって、それが両丹地域の人々の人間性や気候風土と相まって、現在の両丹茶業にまで由良川の流れのように続き、脈々と息づいているのではないかというストーリーを描いていました。「グンゼ」が明治の時代から「人づくり」社員教育に力を入れたことや、養蚕において繭の品質を科学的にきちんと評価して取引を行なう「品質本位の公正な正量取引」を時代に先駆けて推し進めたこと、養蚕家をはじめ地域との「共存共栄」を求めた理念、それらが時代とともに養蚕業から茶業に受け継がれ、革新的な「荒茶販売斡旋所」や「両丹茶農協式茶園高棚被覆方式」が生まれ、現在においてはJAの茶部会を中心に栽培管理面でもよくまとまって統一され、茶農家同士で切磋琢磨して高品質な茶生産を目指していくという方式につながっているのではないかと、思い描いていましたが、そのような事柄を示すような文献や資料には辿り着かず、想像の域を出ません。

その他、茶産地研修においては、予定をやや盛り込み過ぎて慌ただしい行程となり、グンゼスクエアの「綾茶café」等で一部の参加者の皆様にはゆっくりしていただけなかった点や、貸切バスの車種に関しての幹事としての不勉強があり、高速料金の見込み違いがあった点など、反省点がありました。

「茶産地研修IN京都北部」は早い段階より京都府支部の役員の皆様にお世話になり、そして当日遠方よりお越しいただき熱心に研修に取り組んでいただいた皆様にも支えられておかげさまで実現することができました。皆様に心より感謝申し上げます。